LAS Production Presents

 

 

 

Soryu Asuka Langley

 

in

 

 

 

starring

Shinji Ikari

 

and

Misato Katsuragi

as Beauty Woman

 

 

Written by JUN

 


 

Act.1

MISATO

 

-  Chapter 1  -

 

 

 

 

 ある年の夏。

 3人の少年が、とある海岸を訪れた。

 バイトをしながら、夏の海を楽しもうというのだ。

 あわよくば…女の子とお知り合いになって、いい思いをしたいものだと…。

 そう3人で話してはいたが、実際はそう巧くいくはずがないことは承知していた。

 だが、夢想すること、願望を抱くことは、若者の特権である。

 ともあれ、3人の高校2年生はこの海岸に到着した。

 

「ぼろっちい浜茶屋やのぉ。こんなんで、3人もやっとってもらえるんかぁ?」

「トウジ、浜茶屋はどこもこんなもんだ。これでもシーズン真っ盛りには猫の手も借りたいくらいになるんだぜ」

「へぇ、そうなんだ」

「そんなに忙しいんやったら、センセなんかテキパキ動けるんか?客の頭に焼きそばこぼして怒られるんとちゃうか?」

「そうだな、シンジ気をつけろよ」

「どうして、僕だけ…」

「アホ、わしはバスケで鍛えとる。ケンスケのヤツは3年前からここでバイトしとるからのう」

「う〜ん、そんなこと言われると、不安になってくるよ」

「まあ、早く慣れるんだな」

「うん」

 

 少しおとなしそうな少年の名は、碇シンジ。

 他の2人と同様に彼女いない歴17年である。

 中学の時から何故か馬の合う3人は、ケンスケの親戚が経営する浜茶屋でアルバイトをすることにした。

 7月20日から8月15日までのほぼ3週間。

 勉強もちゃんとするからと親を説得し、シンジはようやく参加することが出来たのである。

 母のユイは心配そうな顔を隠せないでいたが、父親の方はただニヤリと笑ってある物をこっそり手渡してくれた。

 こんなの、使うことあるのかな?

 そうは思いながらも、しっかりと財布の奥にしまいこんでいるシンジである。

 彼もセックスに憧れる、普通の高校生だった。

 

 ケンスケは浜茶屋を横目に見て、2人を手招きした。

「ここに交代で一人づつ泊まるんだ。泥棒よけにな」

「そんなの来たら、僕どうしたらいいんだよ」

「あほやな、センセに捕まえてくれなんて、誰も期待してへんで」

「ああ、誰か中にいることがわかってたら、入って来ないだろ?ま、防犯装置みたいなもんだ」

「あ、そうなんだ」

「それでも悪さしてくるようなヤツらがおったら、すぐに警察に電話したらええんや」

「うん、そうするよ」

「それがええわ。ま、一人で寂しかったら、女の子でも引っ張り込んで…」

 トウジはいやらしさ満開で笑み崩れた。

「ええことでもしたらええんや。グフフフ…」

「そんなに巧いことはいかないよ」

「そ、そんなんわからへんわい。ひょっとしたら、ひょっとするってこともあるやないか!」

「何むきになってんだよ。まあ、箱買いしたヤツを来年まで取り置きするだけの話だな」

「は、箱買いって!ケンスケ、お前!」

「隣町のコンビニで買っただろ」

「な、な、な、何で知っとるんや!」

「ははは、お前の後で俺も買ったからな」

「なんや…。せやったんかいな。ほな、お仲間やないか」

「そういうこと。あ、シンジ、もし要るんだったら、遠慮なく言えよ。どうせトウジのは封も破かないままだからな」

「あ、アホぉ!それはお前の方じゃ!」

 悪態をつき合う親友に、自分もたった一つだけど持っていることは言えないシンジだった。

 

「まあ、ケンスケ以外の二人は早めに慣れてくれよな。

 今週末くらいから海水浴客どんと増えそうだ」

 ロン毛をゴムでくくっている青葉シゲルが、缶コーヒーを飲みながら言う。

 ケンスケの母方の親戚に当たるそうだ。

 すでに大学6年になるのだが、今年も卒業予定ではないらしい。

 浜茶屋をメインで経営しているわけではなく、民宿青葉の方に力を入れているようだ。

 但し、民宿や浜茶屋の売上は夏のみなので、実のところはミニスーパー“アオバ”が経営ベースなのである。

 一人息子のシゲルは結局後を継がされるのがわかっているだけに、ぎりぎりまで学生生活を楽しもうとたくらんでいるらしい。

 そんな見え見えの行動に目を瞑っているのは、両親が共に健在であるからかもしれない。

「お前さんたちが戦力になってくれないと、俺が困るんだよ。

 マヤちゃんが来てくれても相手が出来ないんだから…」

「あ、その人、シゲルさんの彼女でっか?」

「へっへっへ。可愛いぜ、マヤちゃんは」

「今度はふられないようにね、シゲル兄さん。あとであたられるの堪らないから」

「こらっ!ケンスケ!」

「いてっ!」

 缶のお尻で頭を叩かれ、ケンスケが頭を押さえる。

「痛いなぁ…。そんなことするなら、その彼女の水着写真撮るのやめようかな…?」

「あっ!お前、雇い主脅すのかぁ」

「だって、雇い主はおじさんじゃないか。シゲル兄さんはただのバイトの先輩」

「冷たいなぁ…。よし、わかった。もし、マヤちゃんが友達を連れてきてもお前たちには紹介してやらないからな」

「あ!それはっ!ごめん、ちゃんと撮るよ。傑作を」

 シゲルは大笑いした。

「ところでさ、お前たち、楽器は?ああ、ケンスケには期待していないから返事しなくていいぜ」

「酷いなぁ。まあ、その通りだけど。あ、二人とも駄目だよ。トウジは音痴だし、シンジはチェロだからね」

「チェロか!う〜ん、高尚すぎて、ギターとは合いそうもないな」

「すみません」

「いや、謝られてもなぁ。はは、何か凄くいい子だな、シンジ君は」

「だろ。トウジとは違うよ」

「何やてっ!」

 トウジがふて腐れた。

「ええ子でも、もてへんのは一緒や」

「はは…それはそうだね」

「いやぁ、俺はシンジ君はもてそうな気がするな」

「そんなことありますかいな。学校でも全然やのに」

「甘いな。ここは避暑地だぜ。学校とは違うんだ。回りの連中と色合いが違うと目立つ」

 シゲルはコーヒーをごくごくと飲み干した。

 どうしてシンジなんだと不満な残りの二人は、シゲルの次の一言を待つ。

「ほとんどの連中が女女と目の色を変えてる中で、

 たった一人だけのほほんとしているお坊ちゃんタイプだ。

 お姉さまタイプの母性愛から、妹タイプのお兄ちゃん受けまで、けっこう幅広く人気を集めるぞ」

「そんなん信じられませんわ」

「いや、俺は信じる」

 ケンスケはメガネをぐっと掛け直した。

「シゲル兄さんは物心ついたときからずっとこの浜を見てきたんだ。

 その兄さんが断言してるんだから、シンジはもてる。心外だけどな」

「え、そ、そうなの…?」

 シンジが少し顔をほころばせた。

 その頭をトウジが叩く。

「痛い!」

「何喜んどるねん!けったくそ悪い」

「待てよ、トウジ。これは巧くすると巧くするぜ」

「へ?何を言うとんねん」

「わからないのか?」

「ほう…ケンスケ。シンジ君を利用する気か」

「シゲル兄さんだって、そのつもりなんだろ?」

「何や何や、親戚同士で。何のことやら、わしには全然わからへんわ」

 肩をすくめるトウジを余所に、親戚二人は妙なアイコンタクトをする。

 

 翌日。

 浜茶屋に3人のアルバイトが加わった。

「ち、ちょっと待ちいな。なんで、シンジが女性客専用やねん」

「作戦だよ。作戦」

「何が作戦やねん。あんなボケボケがもてるわけあらへんって。

 お前もシゲルさんもおかしいんとちゃうか?」

「まあ、見てろよ」

「それにやなぁ、シンジがもててもしゃぁないやないか。口惜しいだけやないか」

「甘いな、トウジ。女の子が一人で海に来ると思うか?」

「そら男と一緒か、グループにきまっとる…ああっ!そういうことかっ!」

「そうそう。シンジにはがんばってもらわないとな」

「よっしゃ!そういうことやったら、わしも協力するでぇ!」

 シンジを餌にして女の子を釣ろうという目論みは、ケンスケとトウジの全面的協力の元、この時開始されたのである。

 

 シンジは動きは鈍いが一生懸命である。

 汗をかきながら注文を取り、品物を運ぶ。

 しかもそれは女性客のみの接客であった。

「おい、にぃちゃん。わしらの注文とってぇな」

「あ、はい」

「ああ、ええからええから、わしが行く」

「え、でも…」

「毎度!何しましょ!」

 トウジは張り切っていた。

 男は全部わしが引き受けたる!せやから、シンジは自分の道を突き進むんやで!

 ケンスケはそんな二人を見てほくそえんでいた。

「おい、ケンスケ。お前、何楽してんだ?」

「あいてっ!お好みの鏝で叩かないでよ。汚いじゃないか!」

 汚いのはその鏝で作られるお好み焼きである。

 シゲルはシンジを使って、浜茶屋「AOBA」への女性客取り込みを画策していたのだ。

 他の浜茶屋がイケメンやノリノリ兄ちゃんを揃えているのに対抗したわけだ。

 昨日はチェロはなぁなどと言っていたのに、碇シンジのチェロの夕べなどという企画を考えている。

 他店との差別化が勝利の方程式。

 さすがは、商売人の跡取息子である。

 遊び呆けていても、商人の血はしっかり受け継がれていたわけだ。

 

 さて、その特別兵器である、碇シンジ。

 彼は必死に働いていた。

 初めてのアルバイトである。

 注文を取って、間違わずに運ぶ。

 そのことだけを一生懸命に考えていた所為で、相手をしていたのが女性客だけだったことにはまるで気付いていなかった。

 それだけに、午後3時にもなるともう限界に近づいていた。

 食事をとっていないのも事実だが、それは他の3人も同じ……ではない。

 シゲルたちはつまみ食いをしている。

 真面目なシンジはそんな事を考えもしていなかった。

 疲れと空腹で、ついにふらふらっとしてしまったのは仕方がなかった。

 それでも意識を失う前に、ちゃんと焼きそばをテーブルに運んだのだけは誉められてよいと思う。

 その直後に、シンジは倒れた。

 前のめりに。

 無意識に身体を支えようとした腕が前に伸びた。

 そして、何かに縋ろうと指が……。

 

 ドスンッ!

 

「きゃああああっ!」

 

 シンジの倒れた音と、甲高い女性の悲鳴。

 浜茶屋にいた人間が、いや近くにいた人間も何が起こったのか顔を集めた。

 床に意識を失って倒れている少年と、

 その前で床にへたり込み、首から掛けたバスタオルを必死に押さえている亜麻色の髪の少女。

 少女は運が良かった。

 もし、首からバスタオルを引っ掛けていなかったら、少女の乳房は白日の下に晒されていたのである。

 何しろ倒れたシンジの右手にはしっかり赤いビキニが握られていたのだから。

「な、何すんのよ!このスケベ!エッチ!変態!もう信じらんないッ!」

 少女は無意識のシンジに罵声を浴びせ、しっかりとタオルで胸を押さえながら立ち上がった。

 そして、シンジを蹴り上げようとする。

「ア、アスカ、やめなさいよ」

「気絶してるよ、この子」

「何言ってるのよ!私が何されたのかわかってるでしょうがっ!」

「シンジ!大丈夫か?」

「センセもやるもんや」

 アスカと呼ばれた少女はその声の方角をきっと睨んだ。

 そ知らぬ顔をするトウジ。

「はいはい、みんな離れてくれるかな」

 洗面器を抱えたシゲルが平然と歩いてくる。

 友人らしき二人の前にあとずさる少女。

 そばかす顔の友人が自分のバスタオルをそっと少女の肩に掛けてあげた。

 もちろん胸はバスタオルでしっかりガードしてるので、気分だけの問題だが少女は友人の心遣いに感謝していた。

「ほ〜ら、起きろ!」

 バシャン!

 洗面器の中の水が仰向けにされたシンジの顔面にぶちまけられた。

「あらら、全然起きへんで」

「やっぱり蹴飛ばしてやればいいのよっ!」

「乱暴ね。あなたたちは」

 含み笑いをしながら、大きなつばの帽子を被った女性が歩いてきた。

「あ、葛城さん」

「Hi!」

 葛城と呼ばれた女性は帽子を脱ぎ、シンジの頭の方に屈みこむ。

「うわぁ、べっぴんさんやなぁ」

 思わず本音を漏らしたトウジに向かってウィンクすると、彼女はシンジの頭を自分の膝の上にのせた。

「さあ、起きなさい。ね、ちゃんと休憩もくれるし、何か食べさせてくれるわよ」

「か、葛城さん。そんな人聞きの悪い」

「あらン。そっかなぁ、ねえ。そこの君?」

「お、俺、いや、自分でありますか!」

 直立不動で答えるケンスケ。

「そぉ、君。今日は休憩もらってる?」

「いえ!まだであります!」

「食事は?」

「それもまだであります!」

「じゃ、つまみ食いは?」

「はい!しっかりしてるであります!」

「この子は?」

「シンジは真面目だからしてないはずであります!」

「それじゃ、倒れても仕方ないわねぇ。スーパーアオバの後継ぎさん」

「はぁ…すみません。葛城さん」

 にこやかに笑いかけるスーパーのお得意さんに、シゲルは頭を下げた。

 妙に突っかかって、スーパーで両親に密告されると後で五月蝿い。

「ちょっといい?」

 バスタオルの少女……アスカが、いらついた口調で言葉を挟んだ。

「こいつが倒れた原因はどうでもいいから、私の水着、さっさと返してくれる」

「うふ、それはそうね……あらら」

「どうしたのよ!」

 シンジの手から赤いビキニのTOPを取ろうとしたミサトが笑い声を上げた。

「この子、ぐっと握り締めてて、取れないわよぉ」

「そんなぁ!」

「それに、紐が根元で取れちゃってるから今は使えないわよぉ」

「ああっ!今日が下ろしたてだったのに!おニューよ、オニュー!くそっ!」

 げしっ!

「うっ!」

「アスカ!やめなさいよ!」

「そうよ、可哀相じゃない!」

「ヒカリ、マナ!止めるなぁ!こいつ!こいつ!」

 げし!げし!

 二発目以降は葛城という女性がカバーしたから、シンジの脇腹には入らなかった。

 だが、一発目でシンジは覚醒したようだ。

 目を開けて、何が起きたのか周りを見渡した。

 真っ先に目に入ったのは、頭を膝の上にのせてくれている美人の笑顔。

「えっと…」

「おはよン、私、ミサト。よろしくぅ!」

「あ、その…碇シンジです」

 そう名乗った後に、シンジは膝枕状態だということにようやく気付いた。

「あ!ご、ごめんなさい!」

 慌てて起き直ると、シンジは床に正座してぺこりと頭を下げた。

「いいのよ。アンタ、倒れちゃったの」

「あ、それで…介抱していただいたんですか」

 シンジが頭を掻いたその瞬間。

 ドスン!

 アスカという名の少女が床板を踏み抜かんばかりに、思い切り踏みつけたのだ。

「わっ!」

 驚いてアスカを見たシンジは、胸元のバスタオルを必死に押さえている紅毛碧眼の少女を怪訝な顔で見た。

「何、ぼけっとした顔で私を見てんのよ!」

「誰、君?」

「ああああっ!信じらんないっ!」

「はあ…?」

 当事者二人以外のギャラリーは全員にやにや笑ってしまっている。

 真剣なのはシンジとアスカの二人だけだ。

「じゃ、アンタの手の中にあるのは一体何よ!よく、見てご覧んなさいよっ!」

「はい?」

 シンジは見た。

 赤い、小さな布キレ…。

 それが何なのか、理解できるのにたっぷり5秒はかかった。

「ええええっ!」

「何喚いてるのよ!」

「こ、こ、こ、こ、これ、君の!」

「あったり前じゃない!」

「じゃ、じゃ、君の水着を!」

「そうよ!お店に入ってきた途端に、私はアンタに襲い掛かられたのよっ!」

「ぼ、僕がっ!?」

「いきなり水着を剥ぎ取られたの!アンタ、痴漢?変質者?」

「ち、違うよ。僕、何も覚えてないんだ。どうしてこれが僕の手に…」

「みんなそう言うのよね。何も知らない、覚えてないって。

 そんな言い逃れ許さないわよ!実際、今も水着握り締めてるじゃない!」

「あ、あああっ!ごめん!ごめんなさい!」

 シンジは赤いTOPをアスカの差し出した。

 バスタオルが動かないように慎重に片手で受け取ったアスカは、

 惨めな顔で紐が千切れてしまったビキニを見つめる。

「そ、それって…」

 恐る恐る、切り出したシンジにアスカは再び噛み付いた。

「どうしてくれんのよ!ええっ!私の水着!おニューの下ろしたてよ!まだ海にも入ってないのに!」

 びっくりマークが連発するアスカの叫びは浜茶屋に木霊した。

「ご、ごめん…」

「弁償だな」

 シゲルがぼそりと言った。

 面白い見物だったが、そろそろ終わりにしないと商売に差し支える。

「あ、はい、そうですね。あの…いくらくらい……」

「同じの返して」

 アスカが低い声で言った。

「え…」

 シゲルは溜息をついた。

 すんなり終わりそうもなさそうだ。

「同じの返してって言ってんの!」

「そ、そんなぁ…」

「これ、探し回って買ったんだから!その時間も一緒に返してよ!」

「アスカ、もうやめときなさいよ」

「うん、可哀相よ」

「可哀相なのは私の方じゃない!」

「でもさ…どう見てもアスカが難癖つけてるような…」

 栗色のショートカットの女の子がそう言った。

「どうしてよ!被害者はこっちよ!」

 シゲルはその時、どんどん話が拡大していくのを予感した。

 間違いなく女の子グループの中でも喧嘩が始まる。

 そうなると浜茶屋「AOBA」のイメージが悪くなる。

 せっかくの秘密兵器のシンジの悪い噂も出て、女性客取り込み作戦は初日で頓挫だ。

 シゲルは決意した。

「よぉし!シンジ君、これから君はこのお嬢さんの荷物もちだ」

「はい?」

 突然、大声で明るく言ったシゲルが一同の注目を集めた。

 癇癪を起こしていたアスカでさえ唖然とした顔をしている。

「それって…?」

「葛城さん、隣町のブティックに水着のいけてるやつ置いてるとこありますよね」

「あるわよン」

「じゃ、シンジ君。今から彼女の水着を買いに行くんだ」

「ぼ、僕がですか?」

「そうだ」

「一人でですか?!」

「そんな!こんなヤツの選んだ水着なんかいやよ!」

「そうですよ!僕だって自信ありません!」

「おいおい、誰もシンジ君一人で行けなんて言ってないだろ」

「じゃ、私にこいつと二人きりで隣町まで行けっていうことぉ?!」

「いや、何も二人きりじゃなくてもいいんだけど」

 シゲルにそう言われて、アスカは口篭もった。

 何故かその時、アスカの頭の中には友人二人の存在は消えていたようだ。

「あ、じゃ、私が連れてってあげるわ」

 ミサトがぽんと手を叩いた。

「いいんですか?葛城さん」

「いいわよン。どうせ暇だしね」

「あ、あの…」

 シンジが真っ赤な顔をしている。

「どうしたのン?あ、美人二人と一緒で照れてるのかなぁ?」

「ち、違います。あ、あの…」

「よしきた、シンジ君。これ持っていけ」

 シゲルは財布から1万円札を出した。

 うぉぉっとギャラリーからどよめきが起こる。

「バイト料の前渡しだ」

 その一言は余計だった。

 一瞬沸騰したシゲル株は、あっという間に急落。

 当人だけがそれに気付いていなかった。

 

 民宿に帰ったアスカは黄色いワンピースに着替えてきた。

 そして、その民宿の前に停まっていたミサトの車へ。

 けっこうポンコツのジープである。

 何故か助手席は荷物が山盛りで、シンジとアスカは否応なく後部座席に並ばされる羽目になった。

「アンタ、私にくっつかないでよ」

「わ、わかってるよ」

「じゃいくわよン」

 車は急ダッシュ……できるような性能はなかった。

 ゴトゴトいいながら発進する。

「あの…葛城さんでしたっけ?」

「あら、ミサトでいいわよ。私、葛城ミサト。よろしくねン」

「あ、私は惣流・アスカ・ラングレーです。アスカって呼んでください」

「OK。アスカね」

「あの、僕は…」

「アンタの名前は聞いてない。だまってなさいよ」

「あ、うん…」

「ちょっちきついんじゃないの?照れてるのはわかるけど」

 ハンドルを握るミサトが軽く言った。

 途端にアスカの頬が赤くなる。

「そ、そんな、照れてなんかいません!」

「大声なとこが怪しいなぁ」

「絶対にそんなことはありません!」

「ま、いっか。えっと、シンジ君だったわよね」

「は、はい!碇シンジです!」

 シンジはミサトのような美人に名前を覚えてもらっていて感激していた。

「じゃ、シンちゃんね」

「私はそんなシンちゃんなんて呼ばないわよ!」

 気張った声でアスカが会話に割り込んでくる。

「アンタなんてアンタで充分。名前で呼んでほしいんだったら、そうね、馬鹿シンジって言ってあげるわ」

「え、そんな酷い」

「うっさいわね!決定!アンタは馬鹿シンジ」

「勘弁してよ。人前でそんな風に言われるのなんて…」

「じゃ、誰もいなけりゃいいのよね。わかったわ」

「あ…」

「で、アンタいくつよ」

「17才」

「高2?」

「うん」

「じゃ、同じだ」

 何だかんだと言いながら、話が弾みだした後部座席の二人を見て、

 ミサトは微笑みながら車を走らせた。

 いいわねぇ、若いって。

 

 その年の夏。

 シンジにとって、一生忘れることのできなくなる夏。

 その夏の物語の幕が上がった。

 

 

 

 

TO BE CONTINUED

 

 


<あとがき>

 2003年夏LASです。まずは第1章「ミサト」。続いて第2章「レイ」。そして第3章「アスカ」と続く予定です。

 夏休みが終わるまでに書けるだろうか?がんばろう!

2003.07.26  ジュン

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